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homerhymester blog20070108

• これぞホントの『不都合な真実』、的な。

  2007.1.8　09:35:00

  Utamaru

  『恐怖の存在（上）（下）』（早川書房）読了。
  
  
  毎度お馴染みド派手な見せ場テンコ盛りの
  スピーディーなストーリー展開はしかし、
  こと今回に関しては一般読者を引き込むためのオマケみたいなもの。
  ところにより小説としてのバランスを崩してまで、
  登場人物の口を借りて延々とレクチャーされる著者の主張は、
  それこそ
  『環境危機をあおってはいけない』（文藝春秋）
  
  あたりを読んでない人にはにわかに受け容れづらい、
  ショッキングなものかも知れません……
  なにせ帯にもドーンとある通り
  （これはあくまで便宜上
  極めて大雑把な言い方をしているわけですけど）、
  「“地球温暖化”は本当に起こっているのか？」という、
  人によってはいきなり怒り出してしまいそうな問題提起！

  そうした“ビギナー”読者をもちろん想定してのことでしょう、
  少年向けの『○○入門』よろしく、
  あえて「物分かりがあまりよろしくない」ように設定された主人公が、
  逆に全ての真実を知り尽くしているかのように見える
  「先生」役との問答を通じて、
  これまで無批判に信じ込んでいた「常識」をことごとく覆されてゆく過程が、
  まずは順繰りに描かれてゆきます。
  で、この段階ではまだ主人公の心情的反発は消えていないのですが、
  次に、あからさまな「バカ」キャラが登場。
  先に主人公がしていたような問答を繰り返すものの、
  こちらはいくら完膚なきまでに論破されても
  頑なに「自分が信じたい」結論に閉じこもるばかりなので
  （これがまた本当にイジワルなんだけど、
  巷に流通しているやっすい“エコ”な言い草そのもので……痛快！）、
  著者側が提示する知見と情報を
  この時点ではすでにある程度共有している主人公（と読者）にとっては、
  そういう態度が恐ろしく非知性的で、
  幼稚なものに見えてくる……という、
  ダメ押し的な仕掛けになっているわけですね。念入りだなァ。

  著者はさらに、
  「我々大衆にとっては、
  それが真実であるかどうかにかかわらず、
  メディアが伝えることこそが“現実”になってしまう」
  「我々大衆は絶えず新しい“恐怖”を吹き込まれることで、
  ひどくコントロールされやすい存在になり下がってしまう」
  という、非常にイタ〜い警告にまで踏み込んでいます。
  前に『「社会調査」のウソ』（文春新書）を紹介したとき
  /rhymester/blog/2006-12-03
  に書いたことにも通じますけど。

  ホントにサクサクサクサクーッと読めちゃう作りなので、
  『環境危機をあおってはいけない』が読書体力的に
  （あるいは経済的に）ちょっとツラいという貴方に特にお薦め！
  で、そのあと立て続けに『不都合な真実』を観に行ったりすれば、
  ちょっとメディア・リテラシー的な訓練に、
  なったりならなかったりするかも知れませんねっ！
  それにしても、
  この作品に限ってはやっぱり、
  ハリウッド映画化はされなかったりするんだろうなぁ……。

  （宇多丸）

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