homerhymester blog20060405
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「考えるな、感じろ……!」が正しい理由
2006.4.5 04:53:00
友人の高橋ヨシキさんから薦められた
『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』(紀伊国屋書店)
ようやく読了。560ページ以上もある大著だけど、
「情報を処理する」とはどういうことか等々、前提となる理論の積み重ね
(それも決して難解過ぎるということはない)を除けば、
核となる主張は以下のようにごくシンプル、かつ超刺激的なもの。【人間の脳全体が受け取っている
毎秒1100万ビット以上もの膨大な情報量に対して、
我々の「意識」の処理能力は、毎秒わずか数十ビットから数ビットに過ぎない】【我々が何かをしようと「意識する」よりも早く、
我々の脳はその方向に動き出している……
つまり、「意識」が我々の行動を決定しているのではない】【何かが起こったことを我々が「意識する」までには0.5秒の遅れが生じる……
にも関わらず、我々はその0.5秒を事後的に「繰り上げて」意識することで、
「今、この瞬間」を生きているかのように錯覚している】要するに人間の意識とは、
言わばコンピュータにとってのデスクトップ画面のようなもの——
例えば「ファイル」やら「ゴミ箱」は、
必ずしもコンピュータがしている仕事そのものとは合致しないどころか、
実際には存在しないシンボルに過ぎないのだけど、
そのようにコンピュータの働きを極度に単純化してマクロ的に把握する方が
ユーザーである我々にとっては遥かに効率が良いために生み出され、
今となってはもはや誰もそれをまやかしであるとはわざわざ思い出しもしないほどに
普及〜定着しきった虚像——なのだと。
この比喩は本当に的確で分かりやすい、本書のキモだと思います。さらに
【意識なるものが人類に芽生えたのは、せいぜい3000年前程度のことかも】
とまで! わーお。
じゃあその前はどうしてたんだ?という話をもっと突っ込んだのが次に読む予定の
『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』(紀伊国屋書店)。同じ実験結果を元にしてるから当然っちゃ当然なんだけど、
一昨年読んだ『脳はなぜ「心」を作ったのか』(筑摩書房)と良く似た仮説、
ただそっちは後半がえらく暴走気味だったからな……ともあれこれって、
「この私」こそが自分という存在の主人であるという日常的実感、
と言うか常識的感覚からは完全に乖離している、
ちょっととんでもない話なんですが……私の場合であれば、
ことラップを書いたり、パフォーマンスする時の経験に引き寄せて考えると、
非常に納得出来るものがある。
作詞という作業はまさしく意識から無意識への必死の呼びかけそのものだし
(だからこそほとんど何も出来てない段階でもなぜか
『いずれ宇多丸が何とかしてくれるだろー』という
どこか他人事めいた確信があったりするのかと)、
ライブの最中に何かを「意識」などしたが最後、頭の中は真っ白になってしまう
(リリックはもちろん、音響、照明、他のメンバーの動き、
喉の渇き、便意、最前列のお客さんの顔、この後の予定、預金残高などなど、
毎秒数ビットで処理し切れるわけもない量の情報が
一斉に『意識』に襲いかかってくるわけで……
逆に、『新しい歌詞って一回でも人前でやるとなぜか憶えるよね』
というライムス内定説も、
一旦意識にそういった『過負荷』をあえてかけてやることで、
荒療治的に無意識を活性化させるということなのでしょう)。もちろんこれは、だから皆さん何も考えなくていいよと言ってるんじゃなくて、
意識による長期的な方向づけや積み重ね=勉強とか練習
(時としてそれは反射的な欲求には反しているかも知れない)
があってこそ、大局的にもより「正しく」無意識は働いてくれるし、
それを知っている「この私」も安心して身を委ねることが出来るということ。
再びライブの例で言えば、
まずは反射的に「正しく」パフォーマンス出来るところまで
練習を徹底させたその後でこそ、
そこに「意識的な」逸脱を仕掛けることも可能になったりするわけで。
逆に言えば、
「この私」に出来ることはその程度でしかない、ってことでもあるのですが。あと、『ブラスト公論』での
「ほんとの自分」「属性としての性格」幻想批判にもリンクする話かも。
「この私」が思ってるよりずっとずっと「自分」の境界線は曖昧、
と言うか把握し難いものなんだと。実に「考えるな、感じろ」とは、
「意識」の限界を知りその外側にある力を解き放てという、
科学的にも超正しいメッセージだったわけですね!
何しろ「考える」だけで絶対に0.5秒は遅れるんですから。
しかも本人はそれに気づかない……確かに戦闘には命取りだ!
本書にある「西部劇の悪役が一騎打ちで必ず負ける理由」
(ここまで読んだ人なら大体理屈は想像つきますよね)
にも思わず納得しつつ笑ってしまいました。面白い本です!
(宇多丸)
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このBLOGについて
【管理:スタープレイヤーズ】ライムスターメンバー、スタッフが書き込みます。
2018年10月に旧ライムスターブログ、11月にマボロシブログ『マボロシ 坂間大介 Rec日記』を統合し、全ての時代のライムスターブログがここに集まりました。
RHYMESTER(ライムスター)
1989年結成。宇多丸(ラッパー)、Mummy-D(ラッパー/プロデューサー/またグループのトータルディレクションを担う *作編曲家としての名義はMr. Drunk)、DJ JIN(DJ/プロデューサー)からなるヒップホップ・グループ。自他共に認める「キング・オブ・ステージ」。フィジカルとエモーションに訴えかけるパフォーマンスと、当意即妙なトークによって繰り広げられるライブに定評がある。1980年代後半、まだヒップホップが広く一般に認知されるはるか前より「日本語でラップをすること」の可能性と方法論を模索。並行して精力的なライブ活動を展開することによってジャパニーズヒップホップシーンを開拓/牽引してきた。近年はグループとしての活動に加え、各メンバーがラジオパーソナリティーや役者など活躍の場を拡大。結成30周年を迎えた2019年にはアニバーサリー企画としてグループ史上最大規模の47都道府県48公演に及ぶ全国ツアーを敢行、成功へと導いた。
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